私の今取り組んでいる研究は、グラニュラー組織を持つ材料の析出化過程のTEM観察である。材料は主にITOという酸化インジウムと酸化スズを焼結したもので、これに金属を様々含めて観察用試料としている。

ITOという材料は近年非常に重要視されている。この材料を数ナノの薄膜にすると、透明で電気伝導性があるという性質を持つ。これらの性質が、近年のフラットパネルや有機ELといった技術を支えている。ここで技術的な問題点が現れる。製膜時の問題点と、電気伝導性の問題点だ。ターゲットITOにより工業的に薄膜を作る技術にはスパッタリングというものを用いている。このとき、ITOバルクからスパッタされた粒子が試料版に吸着するのだが、ターゲットの性質上粒子の勢いが強すぎて薄膜の製作が困難であるというのが、製膜時の問題である。もう一点は、ITO薄膜の持つ磁気抵抗値が、温度の上昇とともに変化するということだ。これらの問題への解決策は、スパッタ中にチャンバーに送り込む酸素分圧をコントロールするということだ。

次に、このITO薄膜にコバルトを加えてみる。コバルトは磁性を持つ材料なので、Co-ITO試料を作成すると、コバルトがITO中に固溶しているときは抵抗値が高いのだが、温度を上げてコバルトを析出させることにより、抵抗値が低くなる。また、このCo-ITOにおいて重要なのは、磁場を変えることによっても抵抗値が変化するということである。この技術も急速に進歩し、ハードディスクを読み取るときのヘッドとして使われている。原理を簡単に説明すると、情報を磁気記録として保存したハードディスクには非常に濃い密度で様々な大きさの磁力を持った箇所が連続している。ここに、Co-ITOのような磁場が変化すると抵抗値が変化するといった性質を持つ材料を近づければ、磁気記録となった情報の内容に応じた抵抗値を示すということである。ただしこの材料にも問題点があり、それは実用化するほどの温度に耐えられないということである。確かに、この原理を用いれば記録された情報の読み取りや、逆操作を行うことにより書き込みができるわけだが、発生する熱が非常に大きい。300℃を超えるほどの温度になると、Co-ITOでは磁気ヘッドとしての機能を示さなくなってしまう。

そこででてきたのがプラチナである。プラチナをCo-ITOに加えることによって、磁気ヘッドとして作動可能な温度を350℃程度まで上げることができる。

当研究室の先輩はこの材料についての磁気抵抗測定、それぞれの熱処理温度でのTEM観察を行い析出化の様子を観察したのだが、この観察から得られたのは飛び飛びの温度でのTEMイメージのみであり、温度上昇とともにどのように析出するかまでの議論には及んでいなかった。そこで私の研究では、先輩と同じCoPt-ITO試料を作成し、磁気抵抗、EDXにより組成を分析することにより同様の試料ができていることを確認し、加熱ホルダーを用いたTEM観察により、温度上昇とともにどのような過程で析出するかを観察することを目的とする。

実験に当たっては、前試料として岩塩上にシリカを100Å積んだものを用意し、DCマグネトロンスパッタ装置を用いてCoPt-ITOを100Åとなるように積層した。この後、水中で岩塩と薄膜を乖離することにより、TEM観察の用の試料、及びEDXの試料とした。磁気抵抗測定用には2000ÅのCoPt-ITOをガラス基板上に作成し、四探針方により抵抗値を測定した。

実験の結果、先行研究と同じ試料を作成することに成功し、TEMにより温度上昇過程での試料からの析出の様子が観察できた。

という話に結び付けたい。うまく実験結果がでて欲しい。明日のTEM観察での結果により、実験が終わるか終わらないかが決まる。加えて、考察を進めたい。